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基礎知識|相続放棄と限定承認の違いとは?

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相続が発生すると法定相続人は原則相続人の財産を引き継ぐことになります。

しかし、必ずしも財産を全て引き継ぐ必要がないことをご存じでしょうか。

全ての財産を引き継がない方法は大きく分けてふたつあり「相続放棄」と「限定承認」という方法があります。

それぞれどのような制度なのか詳しくみていきましょう。

相続放棄ってどんな制度?

相続財産を引き継がない方法は「相続放棄」という制度を使うことで実現することができます。
まずは相続放棄の概要についてご説明します。

相続放棄の効果

相続放棄とはその名の通り相続を放棄することです。
放棄をすると、財産の分割のうえで初めから相続人ではなかったことになります。
相続放棄をすると民法上は法定相続人ではなかったということになりますので、全ての相続手続きに参加することができません。
例えば、特定の財産を指定してこれだけは遺産分割協議に参加するということはできなくなります。
また、相続放棄を行うと被相続人が借金を相続する必要がなくなります
例えば、被相続人の財産に借金の方が多く、相続財産を全て精算して支払ったとしても借金が残ってしまう場合であっても、相続放棄をした相続人は借金を支払う必要はありません。
ただし、基礎控除の計算上は相続放棄をしても法定相続人として人数にカウントすることができます。
民法上は相続放棄を行うと、元から法定相続人ではなかったものとして扱いますが、相続税法上は法定相続人としてカウントしますので覚えておきましょう。

相続放棄の手続の流れ

相続放棄をする際にはまずは書類を集める必要があります。
相続放棄に必要な書類とは、
  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の戸籍の附票または住民票除票
  • 続放棄を行う本人の戸籍謄本
になります。
これらの書類に収入印紙を貼って管轄の家庭裁判所に提出します。
管轄の家庭裁判所とは被相続人が最後に住んでいた住所地になります。
相続放棄の申し立てを行うと家庭裁判所から「照会書」が届きます。
照会書に必要事項を記入し家庭裁判所に返送しましょう。
照会書の内容に問題が無ければ、10日程度で「相続放棄申述受理通知所」が家庭裁判所から送付されます。
裁判所からこの通知書が届いたら相続放棄の手続は完了です。
「相続放棄申述受理通知書」は法定相続人が相続放棄をしたことを証明する書類として使うことができます。
例えば、被相続人の借金の債権者が取り立てに来たとしても、「相続放棄申述受理通知書」を見せることで支払いを拒否することが可能です。
万が一「相続放棄申述受理通知書」を紛失してしまった場合には、同じ効果がある「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所に発行してもらうことができます。
 

相続放棄の注意点

相続放棄は被相続人が保有している財産がマイナスの財産の方が多い場合に有効な制度です。
相続放棄にはどのような点に注意をして行えばよいのでしょうか。

相続財産を一部でも処分すると放棄はできない

相続財産を一部でも処分してしまうと相続放棄をすることができません。
例えば、銀行に預けている預金を少しでも相続人が引き出して使ってしまうと相続放棄をすることができなくなってしまいます。
そのため、相続放棄をする可能性がある場合は財産を処分する前に相続放棄をするか否かを決定しておく必要があります。
また、相続放棄をする際にはプラスの財産とマイナスの財産がどちらか多いかを調査する必要があります。

相続が発生したことを知った日から3ヶ月以内に行う放棄を行う必要がある

相続放棄をする際には相続が発生したことを知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。
相続が発生したことを知った日とは、被相続人が亡くなったことを知った日です。
民法の知識が乏しく自分が法定相続人であったことを後日知ったとしても被相続人が亡くなった日から3ヶ月以内に相続放棄を行う必要がありますので注意しましょう。
また、相続放棄をする際はまずはプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかを調査する必要があります。
被相続人の取引金融機関や借金の状況を調べるのは時間がかかりますので、被相続人が発生したことを知った際にはすぐに財産調査と相続放棄の準備を行わないと3ヶ月以内に手続きができない可能性があります。
どうしても3ヶ月以内に間に合わない場合には「熟慮期間延長の申し立て」を行うことで期限を一定期間延長することができます。

他の相続人に連絡を行う

相続放棄は単独の相続人が行うことができます。
借金が多く、相続放棄をする場合、他の相続人の負担が多くなってしまいます。
また、後順位の親族が相続人となり借金を引き継ぐことになるケースもありますので、他の相続人や後順位の親族には自分が相続放棄をすることを伝えておく必要があります。

限定承認ってどんな制度?

被相続人が借金を残して亡くなった場合に、相続放棄と合わせて検討したいのが「限定承認」という制度です。
限定承認とはプラスの財産がマイナスの財産を上回った場合のみ相続するという制度です。
つまり、プラスの財産でマイナスの財産を返済し、余った場合のみ相続するということになります。
借金の方が明らかに多い場合には相続放棄が有効です。
限定承認は、相続財産の調査をしてみないと財産の状況が把握できない場合に有効な手段と言えるでしょう。

限定承認の手続の流れ

限定承認は相続放棄よりも複雑な手続きが必要となります。
相続放棄と同じく家庭裁判所に書類を提出しますが、受理されたら終わりというわけではありません。
限定承認が受理されると相続財産管理人を選任し、受理審判後、限定承認をしたことと一定期間内に請求申し出をすべき旨を官報に公告する必要があります。
官報公告を2ヶ月以上行った後に現れた債権者に相続財産から返済します。
不動産等、現金以外の資産がある場合は換金して返済することになります。
返済後財産が残った場合のみ相続人は財産を受け取ることができます。

限定承認の注意点

限定承認にはどのような注意点があるのでしょうか。
確認しておきましょう。

3ヶ月以内に相続人全員で行う必要がある

限定承認で最も注意するべき点は相続人全員で行う必要があることです。
相続放棄は単独で行うことができますが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。
また、3ヶ月以内に行う必要があることは相続放棄と同じです。
限定承認は相続人全員で意思を固めてから行う必要がありますので、相続放棄よりもスピーディに行う必要があります。

相続放棄よりも手続きが複雑

限定承認は家庭裁判所に受理されてからも官報公告をする必要があり、手続きが複雑で時間もかかってしまいます
そのため、場合によっては弁護士等の専門家に手続きを依頼した方が良いでしょう。
被相続人の財産が明らかにマイナスなのであれば、限定承認をせずに相続放棄を選択した方が良いでしょう。

まとめ

相続放棄と限定承認について解説しました。
相続放棄は民法上、初めから相続人では無かったことになります。
明らかにマイナスの財産の方が多いのであれば、相続放棄をすることをオススメします。
一方、プラスの財産とマイナスの財産どちらが多いか分からない時は限定承認をすることを検討してみても良いでしょう。
ただし、限定承認は相続人全員で行う必要がありますので、相続が発生してすぐに話し合いを始めないと間に合わない可能性も高くなりますので、注意する必要があります。