グッドエフェクト税理士法人 > 記事一覧 > 相続の限定承認は良いとこ取り?メリット・デメリットと手続き方法を解説
普段の生活では「相続」なんてあまり意識しない事ですが、いざその場面になるとわからないことだらけで困ってしまいますよね。
特に亡くなった人の借金が発覚した場合、それを自分が背負わなければいけないの?と戸惑ってしまうものです。
ここでは限定承認とは何か、相続放棄との違いは何か、手続き方法や必要書類についてお話していきます。
損をしない相続をするために知識を深め最善の相続方法を選べるようにしましょう。
限定承認とは、相続する財産を限度として借金などの相続を承認する相続方法です。
基本的に相続する場合には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産である借金も相続しなければいけません。
しかし、限定承認を行えば多額の借金があった場合に、相続する財産以上の借金を返さなくても良いということになります。
また、相続する財産が明確でなく借金があるかもしれない場合にも限定承認は用いられます。
このように限定承認は良いとこ取りの便利な相続方法ですが、手続きが複雑で弁護士に頼らなければならないこともあるため、利用している人は少ないのが現状です。
関連記事:限定承認で借金返済しなくてもいい?限定承認のしくみや注意点まとめ
相続の方法である限定承認と相続放棄では、どのような違いがあるのでしょうか。
限定承認はプラスの財産を上限とし、借金も相続します。
対して相続放棄は、プラスの財産も借金も相続をしないことです。
明らかに負債の方が多く、持ち家や土地など残したい遺産がない場合には相続放棄を選択すると良いでしょう。
関連記事:基礎知識|相続放棄と限定承認の違いとは?
次に、限定承認を選んだ際のメリットについてお話していきます。
大きなメリットとしては借金を相続しなくてもよい点と、不動産を確実に相続できる点です。 それでは、順に見ていきましょう。
まず借金を相続しなくてもよいことが限定承認の最大のメリットになります。
例えば、プラスの遺産が評価額300万円の持ち家に対し、1000万円の借金があったとします。
相続方法として限定承認を選べば、300万円の持ち家と同等の300万円の借金を背負うことにはなりますが、700万円分の借金は背負わなくて良くなります。
700万円を背負うか背負わないかはその後の人生を大きく変えてしまうこともあり、明らかにマイナスの遺産が多い場合は限定承認を選びましょう。
また、不動産を確実に相続できるのもメリットです。
上記のように評価額300万円の家を相続し、300万円の負債を背負ったとします。
その300万円をどう弁済していくかは自由です。
持ち家を売っても良いですが、300万円の借金を背負い持ち家を手放さないこともできます。
相続人がすでにその家に住んでいて、借金がある場合は限定承認を行うと住む場所に困らないことから、限定承認を選ぶ方が多くなります。
続いて限定承認を行った際のデメリットについてです。
手続きに手間がかかることや相続人全員が共同で行わなければならないなど、細かい決まりがあるため中には相続放棄を選ぶ方もいます。
それでは、デメリットを1つずつ見ていきましょう。
限定承認をする上で、債務の清算手続きをする必要があります。
プラス分からはみ出した負債を背負わないためには、裁判所で清算手続きを行わなければいけません。
所定の申請書や必要書類がいくつかあるため、それなりの時間と労力を使うことになります。
また限定承認は相続人全員が共同で行わなければなりません。
相続人が複数人いて1人でも限定承認に反対していれば、手続きを進めることは出来ません。
まずは、相続人全員の意思をまとめる作業から入らないといけないのです。
さらに限定承認の方法をとるには、相続が始まる被相続人が亡くなった日から基本的に3ヶ月という期間が決められています。
相続人同士で揉めてしまうと期間内にまとまらず、さらに手続きが必要になるなど面倒なことになってしまうでしょう。
煩わしい手続き以外に税金がかかってしまうかもしれないデメリットも覚えておきましょう。
限定承認を行うと、被相続人から土地や家などの財産をその時の価格で売却されたことと同じ意味を持ちます。
例えば被相続人が土地を持っていた場合、購入時は1000万円だったとしても相続時に1500万円まで時価が上がっていることもあります。
その際、差額の500万円は利益とみなされるのです。
そして差額の500万円に対し、譲渡所得として所得税が課せられてしまいます。
ではどんな場合に限定承認を行うべきなのでしょうか。
下記のような3つの場合は、限定承認をした方が損をせず相続が出来るので覚えておきましょう。
まず亡くなった人の遺産がわからない場合は限定承認が有効です。
もしかすると身内に内緒で借金をしていることがあるかもしれません。
「後から借金が出てきたらどうしよう…」と不安が残るのであれば、限定承認を選んでおいた方が賢明です。
確実に借金はしていないという場合には、単純相続を行いましょう。
また家業があり相続人の1人が引き継ごうと考えている場合も限定承認がおすすめです。
なぜならマイナスの相続が多い場合、一旦債務整理を行い事業再建がスタートできるからです。
家業を継ぐ相続人が1人であれば、他の相続人は相続放棄をして遺産を集中させるという方法もあります。
先ほどお話したように手元に残しておきたい財産がある場合も限定承認が良いです。
持ち家である場合や、手放したくない土地がある場合などは、限定承認をしましょう。
明らかにマイナスの相続が大きければ限定承認すると良いでしょう。
限定承認のメリットやデメリットを知り、限定承認をすると決めたら手続き方法も確認しましょう。
先ほどもお話しましたが、限定承認は被相続人が亡くなってから3ヶ月という短い期間で行う相続の仕方です。
1つのところで躓いてしまうとあっという間に日にちが経っていたということにもなりかねません。
早め早めに動けるようにどこに行ったら手続きがとれるのか、必要書類は何かを覚えておきましょう。
まずは、相続人と財産の調査から始めます。
相続人になる可能性があるのは被相続人の配偶者・子供・その子供や孫・兄弟と生死によって様々なパターンがあります。
限定承認は相続人の全員一致があって初めて成立する相続方法なので、まず相続人にあたるのは誰なのかをしっかり把握しておきましょう。
相続人と並行して財産の調査も進めていきます。
相続できるものは預貯金・有価証券・土地・家屋・山・田んぼ・貴金属・骨董品・自動車などが含まれます。
うっかり見落とした状態で限定承認の申述をしてしまうと、追加はできないので財産の調査はしっかり行ってください。
相続人・財産がはっきりとしたら、相続人との協議を開始します。
繰り返しにはなりますが、限定承認は相続人全員が条件です。
明らかにマイナスの相続が大きければ反対する人はいないでしょうが、どの遺産を誰が相続するかで揉めるかもしれません。
限定承認にしても相続放棄にしても1度しか申し立てが出来ないため納得するまで話し合いをしてください。
3ヶ月の熟慮期間に話し合いが終われば問題ないですが、相続人の意見がまとまらない場合や、財産の調査が終わらない可能性もあります。
そのような時には、熟慮期間の伸長を申し立ててください。
被相続人の住所地がある家庭裁判所で申し立てが出来ます。
申立書はインターネットでダウンロードすることも可能です。
ただし、熟慮期間中に申し立てをしないと単純承認になってしまうので注意が必要です。
被相続人が残した遺産をどう分散するのか、相続人の意見がまとまったら、申述書と財産目録の作成に入ります。
こちらも用紙は、裁判所のホームページからダウンロードが可能です。
また、申述書と財産目録の記入例もあるので参考にしてください。
財産目録の作成をすることによって、プラスの遺産だけでなく、マイナスの遺産も一目でわかるようになります。
そして、書面に起こしておけば後々揉めることもなくなるでしょう。
続いて必要書類をそろえる作業に入ります。
後ほど詳しく必要書類についてお伝えしますが、必要書類は大きく分けて3つです。
申述書や財産目録を作成しながら、同時進行で住民票等を取り寄せておけば申述がスムーズに進められるでしょう。
ここで、いよいよ限定承認の申述を行います。
申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
収入印紙800円と裁判所から連絡を受ける際の切手を添付して提出します。
申述書を提出した後提出書類に不備がなければ審判がなされ、限定承認受理について通知書が送られてきます。
もし不備や不明点があれば、裁判所から問い合わせや資料の追完などを求められることもあります。
申述が受理されると、相続財産管理人の選任が行われます。
相続人が1人しかいない場合は申述した人が限定承認者になり、相続人が複数いる場合は申述受理審判と同時に選任されます。
もし相続人の中で財産管理人を任せる人が決まっているのであれば、申述書を提出する際に併せて提出しておきましょう。
限定承認者又は相続財産管理人が決まったら、速やかに債務者・受遺者への催告・公告を行います。
相続債務者・受遺者に対し、清算手続きに着手したことを知らせる目的と相続人を捜索するための公告です。
公告は官報に2ヶ月ほど記載するのですが、インターネットから申し込むことも可能です。
限定承認者又は相続財産管理人は、相続財産の管理や売却に入ります。
具体的には換価手続きといい、不動産などの財産を処分し金銭に換えることです。
原則として競売によって行われます。
上記のように相続した不動産はまず競売にかけられるのですが、限定承認者や相続財産管理人には先買権というものがあります。
優先権とも言われ、不動産等を買い戻すことができるのです。
手放したくない家や財産があった場合、評価相当額を支払えば手放さずに済みます。
公告期間が過ぎてから、届け出のあった債権者やその他の知れたる債権者に対して配当を行います。
全ての債権者に全額支払いが出来ない場合は、それぞれの債権額の割合に応じて案分弁済することになります。
債権届出期間に申し出なかった債権者や相続人が知らない債権者がいた場合、配当手続きで残った残余財産についてのみ弁済を受けることができます。
それでもなお残余財産があれば、限定承認者が取得したり、共同相続人で遺産分割したりします。
しかし債権者から請求がある可能性もあるため、手をつけずにそのままにしておいた方が良いでしょう。
以上が限定承認を行う際の手続きになります。
かなり多くの手順が必要でさらに期間も決められているので、専門の弁護士に依頼することをおすすめします。
関連記事:【限定承認】手続きの流れと注意点
限定承認を行う際の必要書類は以下の6つです。
申述書や財産目録のベースは裁判所のホームページからダウンロードすることも可能です。
また、戸籍謄本や住民票は市役所で取り寄せることが出来ます。
そろえるのは難しいことではありませんが、一番手間取るのは財産目録の作成です。
必要書類は限定承認の申述までに全てそろえておかないと二度手間、三度手間になってしまうので、準備漏れがないように気を付けましょう。
関連記事:限定承認をわかりやすく解説|必要な手続きや書類まとめ
最後に限定承認に関する疑問点を解消していきましょう。
重複するところもありますが、大事なポイントでもありますので、おさらいも含め確認してください。
限定承認の手続き期間は、基本的に被相続人が亡くなった日から基本的に3ヶ月です。
しかし相続人の意見がまとまらない場合や、財産の調査が終わらない場合は熟慮期間の伸長を申し立てれば延長することが可能です。
熟慮期間の3ヶ月以内に期間伸長を申し立ててください。
限定承認の申述にかかる費用は、以下の通りです。
自分で手続きを行う場合は約2,000円ほどですが、弁護士に依頼する場合は弁護士費用に数十万円程度かかります。
限定承認の手続きをとった後に、借金が見つかった場合はその負債を背負わなければならないのか不安になりますよね。
限定承認の手続きが完了した時点で、それ以降に発覚する負債を相続する必要はありません。
同じように新たに財産が見つかった場合も相続することができません。
だからこそ限定承認の手続きをする際には、しっかり財産の調査をしなければならないのです。
ここまで限定承認のメリットや手続きの流れ、必要書類などについてお話してきました。
限定承認は、被相続者に借金などの負債があるかもしれない場合に有効な相続方法です。
また持ち家や土地などどうしても手放したくない財産がある場合にも限定承認の方法をとれば回避できることもメリットです。
しかし、限定承認の手続きは多くの手順を必要とし、複数の相続人がいる場合は手間取ることも多くなります。
相続は計画的に進め、大きなリスクを背負わない最善の方法を選択しましょう。