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相続税の配偶者控除とは?必要条件や計算方法、デメリットまでを徹底解説

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被相続人から遺産を相続する際、配偶者のみ利用できる配偶者控除という制度があります。

この制度を正しく理解し利用することで相続税の負担軽減になり、場合によっては相続税を支払わずに相続することも可能です。

まずは配偶者控除についてどのような制度か理解を深め、損がない利用の仕方を学んでいきましょう。

また配偶者控除には思わぬ落とし穴となるデメリットも存在します。

そちらも併せて頭に入れ、残された子供に負担がかからない相続ができるよう相続税の配偶者控除について知っていきましょう。

相続税の配偶者控除とは?

相続税の配偶者控除とは、配偶者の税額軽減という制度です。

例えばあるご夫婦の夫が亡くなったとします。

遺産相続には必ず配偶者である妻(夫)が法定相続人に含まれるため、妻は財産を相続する権利があります。

そこで、相続する際に相続税という税金が発生してしまうことがあるのです。

しかし、配偶者控除によって相続した遺産全てに相続税がかかるわけではありません。

詳しい金額については後ほど詳しくご説明しますが、その後の生活を送くっていくために配偶者控除の仕組みを覚えていきましょう。

配偶者にだけ認められる軽減制度

配偶者控除とは、日本において配偶者(婚姻関係にある方)がいる場合に認められた税金の軽減制度のことです。

また日本の配偶者控除は、夫婦それぞれの基礎控除等に加えて配偶者の存在を要件に追加的に控除を行うものになります。

配偶者控除に値する人はあくまで婚姻届を提出している方のみになりますので、内縁関係や事実婚の場合は、配偶者控除はおろか相続人にもなれません。

逆に長年別居していて夫婦関係が破たんしている場合でも、離婚が成立していなければ配偶者に変わりはなく、遺産を相続する権利もあり配偶者控除の対象にもなります。

配偶者が相続できる遺産の割合

配偶者が相続できる遺産の割合は、法定相続分と言います。

法定相続分は、遺産を相続する人数によって変わるため、一概に何割という言い方はできません。

遺産を相続する人が配偶者のみであれば全額、配偶者と子供であれば配偶者は遺産のうち2分の1、配偶者と親であれば配偶者は遺産のうち3分の2、配偶者と兄弟姉妹であれば配偶者は遺産のうち4分の3を相続できます。

それ以外の遺産は子供や親・兄弟姉妹で分割となります。

遺産を相続できる法定相続人

上記で触れた遺産を相続する人、配偶者・子供・親・兄弟姉妹のことを法定相続人と呼びます。

法定相続人には必ず配偶者は含まれ、それ以外は血縁関係にある人物を指します。

法定相続人には「優先順位」というものがあるのですが、第一順位から第三順位まで定められていて、第一順位は被相続人の子供です。

もし子供が死亡している場合は、孫が第一順位にあたります。

第二順位は被相続人の親です。

もし親が死亡している場合は祖父母が第二順位にあたります。

第三順位は被相続人の兄弟姉妹です。

兄弟姉妹が死亡している場合は、その子供である甥や姪が第三順位になります。

関連記事:相続税の配偶者控除と子供がいる場合の相続税は?

 

相続税の配偶者控除を受けるための必要条件

相続税の配偶者控除を受けるためにはいくつかの必要条件があります。

これらの条件を満たしていないと、配偶者控除は適用されず控除を受けられなくなる可能性が出てきてしまいます。

どのような条件があるのか、1つずつ確認をしていきましょう。

条件1.戸籍上の配偶者である

まず絶対条件は戸籍上の配偶者であることです。

配偶者控除に値する人は、あくまで婚姻届を提出している方のみになります。

内縁関係や事実婚の場合は、相続人にもなれないのです

反対に長年別居していて夫婦関係が破たんしている場合でも、離婚が成立していなければ配偶者に変わりはなく、遺産を相続する権利があり配偶者控除の対象にもなります。

条件2.相続税申告書を提出する

また相続税申告書を提出していることも条件の1つです。

仮に相続が配偶者控除の範囲内で収まったとしても、相続税申告書は提出する必要があります。

「相続税がかからないから申告しなくても良い」というわけではありません。

配偶者控除を受けるために相続税申告書と一緒に提出する書類は以下の通りです。

  • 被相続人の出生から死亡までの履歴がわかる戸籍謄本
  • 遺言書がある時は遺言書
  • 遺産分割協議書の写し

被相続人が亡くなった日から相続は始まるため、亡くなった日から10ヶ月が申告期限です。

うっかり過ぎてしまった場合や、相続税がかからないだろうからと申告をしていないかった方もご安心ください。

申告期限を過ぎてしまってもきちんと申告すれば配偶者控除を受けることは可能です。

条件3.遺産分割が確定している

申告書を提出するまでに遺産分割が確定していることも配偶者控除を受ける条件になります。

期限内に遺産分割に関して相続人同士で話し合いをしなければなりません。

分割の話し合いがまとまらなかった遺産については、配偶者控除の対象にはならないことを覚えておきましょう。

ただし相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して申告することで、3年の猶予が与えられます。

条件4.相続財産を隠していない

相続財産を隠していないことも配偶者控除の対象になるか変わってきます。

例えば申告後に相続できる遺産が見つかったとします。

申告漏れしたことに悪意がない場合は対象になり控除されますが、万が一遺産を隠していた場合、税務署による税務調査が入る可能性があります。

隠ぺいしていた遺産の配偶者控除を受けることができない上に、罰金の意味を持つ重加算税も課税され、通常の相続税に加えて35~40%多く税金を支払わなければならなくなるでしょう。

もし申告書提出後に申告漏れが発覚した場合は、すみやかに修正申告することをおすすめします。

関連記事:相続税の配偶者控除の申告に必要なこと4つ

 

相続税の配偶者控除の計算方法

配偶者控除は、以下の金額のどちらか多い金額まで相続税がかかりません。

  1. 1億6,000万円
  2. 配偶者の法定相続分相当

ここでは、配偶者控除の計算の仕方を2つのパターンに分けて解説します。

まずは法定相続分が1憶6,000万円以下の場合は、配偶者控除はいくらになるのかみていきましょう。

法定相続分が1億6,000万円以下の場合

まずは、法定相続分が1憶6000万円以下の場合です。

例えば遺産総額が2憶円で配偶者と子供2人が相続するとします。

すると配偶者の法定相続分は2分の1なので、1億円を相続することになります。

1億円と1憶6000万円を比較すると1憶6000万円の方が高額なので、配偶者控除額は1憶6,000万円までとなり相続税額は0円です。

もし申告後に申告漏れが発見され、修正申告をした場合でも1憶6,000万円までは配偶者控除の対象になります。

法定相続分が1億6,000万円を超える場合

続いて法定相続分が1憶6,000万円を超える場合です。

例えば遺産相続が5億円で配偶者と子供2人が相続するとします。

すると配偶者の法定相続分は2分の1なので、2憶5,000万円を相続することになります。

1憶6000万円を超えてしまうため、差額に相続税がかかるのかと思われがちですが、実は違います。

配偶者控除は1憶6000万円もしくは法定相続分の高額な方が対象です。

この場合、法定相続分の2憶5,000万円まで相続税は控除されます。

関連記事:相続税の配偶者控除の計算例とは?|計算シミュレーション

 

配偶者控除を受けるための手続き方法

あらためて配偶者控除を受けるための手続き方法をおさらいしておきましょう。

相続税の申告は、被相続人が亡くなった時の住所地を所轄する税務署で行えます。

配偶者控除によって相続税がかからなかったとしても申告は必要なので必ず行うようにしてください。

提出する書類は以下です。

  • 被相続人の出生から死亡までの履歴がわかる戸籍謄本
  • 遺言書がある時は遺言書
  • 遺産分割協議書の写し
  • 相続分割が済んでいない場合は申告期限後3年以内の分割見込書

これらの書類をそろえて税務署に提出しましょう。

関連記事:配偶者控除で上限1.6億円相続税額が軽減!その方法とは

 

配偶者控除を利用したいけどこんなときどうする?

遺産相続はご家庭によって大きく揉めることもあります。

財産分与でお金が絡む話なので、揉めるご家庭があってもおかしくありません。

こんな場合はどうしたら良い?という相続に関する疑問を場面ごとに見ていきましょう。

申告期限を過ぎても遺産分割できない場合

まず申告期限を過ぎても遺産分割ができない場合です。

相続税申告の期限は被相続人が亡くなって10ヶ月です。

そしてその申告期限内に遺産分割できなかった場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば期限の延長が認められます。

申告期限後3年以内の分割見込書には、遺産が分割されていない理由と分割の見込みの詳細を記載しましょう。

分割見込書の提出漏れや、うっかり忘れてしまった場合は配偶者控除等各種特例の適応がされなくなってしまうので気を付けて下さい。

関連記事:相続税の配偶者控除|期限切れでも申請できる?

申告後に新たに遺産が見つかった場合

申告後に新たに遺産が見つかった場合もあるでしょう。

申告期限である10ヶ月の間に全ての財産を把握し、相続人で分割するのはなかなかのエネルギーを要します。

またプラスの遺産だけでなく、マイナスの遺産である負債が後から発覚することもありえます。

その場合、申告をした税務署ですみやかに修正申告をする必要があります。

修正申告を行うと遅延税というものが発生し、申告期限から過ぎてしまった日数をかけた分の課金を支払わなければなりません。

「遅延税を払いたくない」と修正申告をわざとしない方も中にはいらっしゃるのですが大変危険です。

新たな遺産があったにも関わらず修正申告を怠ると、相続財産を隠したとし重加算税を支払うことになります。

重加算税は言わばペナルティです。

支払わなくても良いはずだったお金を支払うことになってしまいますので、新たに遺産が見つかった場合は、早めに修正申告を行うようにしましょう。

遺産分割の前に配偶者が死亡した場合

また遺産分割の前に配偶者が死亡した場合、どのようになるのでしょうか。

父・母・子供2人のご家族を例にとって見ていきましょう。

例えば父が亡くなり、母と子供2人が法定相続人として相続手続きをとっている中、母も亡くなってしまったとします。

この場合父から3人で相続するはずだった遺産を子供2人で分けることになります。

母が受け取るはずだった遺産は、1憶6,000万円もしくは法定相続分まで配偶者控除として相続税が控除されます。

ですから子供2人が受け取る遺産が増えたとしても元々3人で分割し受け取るはずだった遺産に対し、相続税がかかるのか計算をします。

 

配偶者控除の2つのデメリット

一見配偶者控除にはメリットばかりが目に付きますが、実はデメリットもあります。

ここでもまた夫・妻・子供2人のご家族を例にとって考えてみましょう。

夫が亡くなり4億円の遺産がある場合、配偶者控除の制度を利用して遺言書により4憶円全てを妻が相続したとします。

配偶者控除により4億円全て非課税で相続することができました。

しかし、その後にデメリットとなる2つのことが考えられます。

税額が増えてしまう場合があったり、二次相続にかかる税率が高くなる点です。

それぞれのデメリットについて見ていきましょう。

デメリット1.税額が増えてしまうことがある

まず税額が増えてしまうことがある点です。

妻が4憶円を相続し、その後妻も亡くなった際は子供2人が相続人になります。

その際4憶にプラスしてさらに遺産が増えていると税額が増えてしまいます。

例えば、妻が現役時代に働いて溜めていたお金やご両親から相続したお金があるかもしれません。

仮に妻の財産が1億円ある場合、子供2人に相続する際には合計5億円の遺産に税金がかかってくるわけです。

夫が亡くなったときに、配偶者控除で非課税になるからと目先の金額ばかりに目がいってしまうと、後々税額が増えてしまうことがあります。

いくらずつ相続するのか話し合う際、妻の財産はどのくらいあるのかについても考慮すると良いでしょう。

デメリット2.二次相続にかかる税率が高くなる

さらに二次相続にかかる税率が高くなることも考えられます。

夫から妻・子に相続した時点では一次相続、さらに妻も亡くなり子に相続することを二次相続と言います。

夫から妻に相続する際は、配偶者控除が1憶6,000万円もしくは法定相続分まで控除されます。

配偶者控除を目いっぱい使おうと一次相続で妻に高額な相続をさせてしまうと、二次相続の時点では配偶者控除が使えないため税率が高くなってしまうのです。

ですから結果的に一次相続で妻・子供と分割して相続した方がトータルで考えたとき得をする場合があります。

 

新制度「配偶者居住権」も活用しよう

相続の話し合いは、2020年4月に施行された新制度「配偶者居住権」の活用も視野に入れて行う必要があります。

配偶者居住権とは、配偶者が非相続人と住んでいた居住地を対象に、終身または一定期間、配偶者に使用を認める権利です。

夫・妻・子の家族を例にとって見ていきましょう。

夫が亡くなり、妻と子が遺産相続をすることになりました。

夫婦が住んでいる家の価値が2,000万円、貯蓄が2,000万円だとします。

法定相続分は妻・子それぞれが2,000万円となり、妻が家を相続すると貯蓄2,000万円は全て子供の相続になってしまいます。

そこで役立つのが「配偶者居住権」です。

子供は配偶者居住権の負担のついた自宅の所有権と貯蓄の半分1,000万円を得ます。

妻は配偶者居住権により、住む家と貯蓄1,000万円を得ます。

妻(母)が亡くなった場合、家の所有権は子供が持っているため相続税が課せられることはありません。

 

まとめ

相続税における配偶者控除の理解が深まったでしょうか。

相続する遺産が1憶6,000万円以下もしくは法定相続分までは相続税がかかりません。

配偶者控除が受けられる条件や申告後に新たな遺産が出てきた場合の対処なども参考にしてください。

10ヶ月という限られた時間で分割が済めば良いですが、納得がいく相続ができることが最善です。

目先のことばかりに囚われず、二次相続のことや相続後の居住についても幅広く検討していけると良いでしょう。